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思い込みと誤算、そして PAGE5

last update Dernière mise à jour: 2025-10-29 09:11:12

「……会いたいなぁ」

 どのツラさげてと言われそうだが、無性に彼女に会いたくなった。

 僕がこんなにも心から惹かれた女性は、絢乃さんが本当に初めてだった。彼女に出会ってから、どんな時にも頭に浮かぶのは彼女の笑顔だけだった。

 いくら女性不信だと口で言っていても、自分の心にウソはつけない。僕は絢乃さんのことなら信じられる……、いや、信じようと決めたのだ。彼女は僕が信用するに値する女性だから。心から愛せる人だから。

 ただ、拒まれたらどうしようという恐怖心から、自分から連絡を取る勇気は出なかった。

   * * * *

 ――そんな愛しの絢乃さんか電話がかかってきたのは夕方四時半ごろ、僕は市谷いちがやのカフェにいた頃だった。

「…………ん、電話? 絢乃さんから……マジか」

 スマホの画面を確かめた僕は、信じられなくて思わず表示された名前を二度見した。

 会長に就任されてから、絢乃さんとのやり取りは主にメッセージアプリだった。そんな彼女からの電話はレアだったが、レアだからこそ僕は不安を募らせた。

「まさか、クビ宣告の電話……とかじゃないよな」

 もう僕の顔を見たくないから電話にしたとか? だとしたら最悪の事態である。が、常識で考えて、休日である土曜日にそんな連絡をするだろうか?

 でもボスからの電話だから出ないわけにもいかず、そして僕自身が彼女と話したいという気持ちもあったので、僕は通話ボタンをスワイプした。

「――はい。絢乃さん、どうされたんですか? お電話なんて珍しいですね」

 どんな用件か予想がつかずにビクビクしていたので、僕の声は若干震えていたかもしれない。

『桐島さん、お休みの日にごめんね? 今、どこで何してるの?』

 そう言った彼女の声は穏やかで、どう聞いてもクビ宣告をする悪魔の声には聞こえなかった。どうやら僕が怯えすぎていただけだったらしく、ホッとした。

「今は……市谷ですかね。今日は朝から都内のカフェ巡りをしていたんです。ちなみに、僕が会社でお出ししているコーヒーの豆も、実家近くのコーヒー専門店から仕入れてるんですよ。……っと、長々と失礼しました」

 安心した僕はつい熱く語ってしまい、ついでのように実家近くのコーヒー専門店の宣伝までしてしまった。これで何度、好きになった女性や歴代彼女にドン引きされたことか。

 そんなことよりも、前日の暴挙
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  • トップシークレット☆桐島編 ~お嬢さま会長に恋した新米秘書~   エピローグ PAGE1

     ――絢乃さんと初めて交わった翌朝。僕が目を覚ますとベッドに中に彼女の姿はなく、代わりにキッチンから何やら水音がしていた。……ん、キッチン? ユニットバスじゃなくて?「おはよ、貢。コーヒー、淹れようと思って」 ベッドから出てキッチンへ行くと、キレイに身支度を済ませていた彼女はケトルでお湯を沸かそうとしていた。前夜のことがまだ鮮明に残っていたせいか、ちょっと気まずそうにされていた。「……ああ、おはようございます。コーヒーなら僕がやりますよ」「あ、ありがと……。じゃあわたし、朝ゴハン作ってあげようかな。トーストと……ベーコンエッグでいい?」 彼女は冷蔵庫を開け、中の食材を確かめながらそうおっしゃった。 その頃には僕も朝食など簡単な料理くらいはできるようになっていたので(これも兄弟の血筋のせいなのだろうか)、必ず何かしらの食材は入っていた。「はい、それで大丈夫です。……あの、絢乃さん」「ん?」「体、大丈夫ですか? 腰とか股関節とか」 女性は初めての性交渉のあと、体を痛めることがあるらしい。僕にはそれが心配で、それと同時に僕のせいでそうなってしまったのではという申し訳ない気持ちもあった。「大丈夫だよ、何ともない。……もしかして貢、責任感じてるの?」「……えっ?」 食パンを二枚オーブントースターにセットし、ベーコンエッグを焼きながら絢乃さんはまるで母親みたいにこうおっしゃった。「貴方は何も悪いことしてないでしょ? そんなことでいちいち責任感じてたら胃に穴開いちゃうよ?」「…………はぁ」「だから、貴方は何も気にしなくてよろしい。……これからもよろしくね」「はい」 ――二人で座卓を囲み、朝食を摂る。神戸出張の時にも同じようにしていたのに、前夜にベッドで抱き合っていたというだけであの時とは違う甘い空気が二人を包んでいるような気がした。   * * * * 絢乃さんが生まれて初めての朝帰りをした数日後、篠沢家の喪が明けた。 そしてそれから約二ヶ月後の三月。絢乃さんは無事に初等部から十二年間通われた茗桜女子学院を卒業された。 卒業式の日には、加奈子女史が篠沢商事の会社そのものを一日休みにされた。「卒業式の日は、絢乃会長の新たな出発の日になるんだもの。社員一丸となってお祝いするのは当然のことでしょう?」「ママ……、何もそこまでしなくても」

  • トップシークレット☆桐島編 ~お嬢さま会長に恋した新米秘書~   彼女に出会えたことの意味 PAGE15

     小さなダイヤがあしらわれたプラチナリングを左薬指にはめて差し上げると、絢乃さんはものすごく喜んで下さった。「……絢乃さん、実は……。僕、お父さまから一年前のクリスマスイブに頼まれていたんです。『絢乃さんのことを頼む』って。それには、生涯のパートナーとしてという意味も含まれていたんです。僕はやっとお父さまとの約束を果たすことができそうです。……こういうと、お父さまの言いなりでプロポーズをしたように思われそうですが」「でも、貴方は貴方自身の意思でわたしとの結婚を決めたんでしょ? ホントにありがとう」「はい。それはもちろんです」「だったらいいの。パパのことは持ち出さないで」 結婚を決めたのはあくまでも僕たち自身だった。お父さまがお決めになったわけではなく。   * * * * その夜、絢乃さんは僕の部屋に泊まって行かれることになった。それは僕たちにとってずっと待ち焦がれていた瞬間だった。――僕と彼女が初めて体の関係を持つという。 着替えがないというので急きょ購入したモコモコのルームウェアと真新しい下着を脱がせた時は緊張した。僕自身、女性を抱くのは美咲以来のことだったから。 丁寧に秘部を指や舌でほぐし、避妊具を着けて挿入する時、彼女は一瞬痛そうに顔をしかめておられたが、「大丈夫、続けて」と躊躇する僕を促して下さったので、僕はそのまま行為を続けた。「……絢乃、気持ちいい?」 行為の間は名前を呼び捨てにしてタメ語で、という彼女のお願いを聞き入れた僕が耳元でそう訊ねると、彼女は喘ぎながら「うん」と頷いた。 彼女の声はやっぱり艶っぽくて、僕の脳までとろかしていった。僕に抱かれるまで、ずっと一人でこんな声を漏らされていたのだ。でも、他の男に聞かれていなくてよかった。この声はこれからも一生涯ずっと僕だけのものだ。「絢乃さん……、僕はもう……っ」「あぁ……っ、わたしも……っ」 大事な部分を繋げ合ったまま、僕たちは幸せな気持ちで二人同時に絶頂を迎えたのだった。

  • トップシークレット☆桐島編 ~お嬢さま会長に恋した新米秘書~   彼女に出会えたことの意味 PAGE14

     そして、絢乃さんはどうして僕があの場にいたのか分からずにワケが分からない、という様子だった。 僕は彼女が無事でホッとした気持ちが膨らみすぎて、公衆の面前であるにも関わらず、彼女をギュッと抱きしめていた。 その時の僕は震えていた。彼女を失うかもしれないという恐怖心が大きすぎて、その反動だったのかもしれない。 もう、この人のことは絶対に離さない。僕が守るんだ――。そう心に固く誓った。 とりあえず、彼女には僕のクルマの後部座席に乗って頂き、僕も同じく後部座席へ移動した。  僕へ謝罪する彼女も、やっぱり何かあった時にはあのお二人に守ってもらうつもりでおられたらしい。僕はそれが面白くなく、「あなたが他の人に守られるなんて、僕はイヤなんです。あなたを守るのは僕じゃないとダメなんです」とダダっ子みたいなことを言ってしまった。 僕を守るためというなら、あえて僕と距離を置いて中傷の目を遠ざけるという方法もあったはずだが。彼女はそれがイヤだったとおっしゃった。多少危険があったとしても、お金がかかっても僕の側にいて守る方がいいと思ったと。それだけ、彼女の僕への愛は深かったということだ。「…………まぁ、絢乃さんに何もなかったからもういいです。その代わり、僕に心配をかけるのはこれで最後にして下さいね? 約束ですよ?」「うん、分かった。もう二度と、こんなことはしないって約束するから」 僕たちは指切りをして微笑み合った。彼女はウソをつけない人なので、信じて大丈夫だ。こう思えるようになったのも、もちろん彼女のおかげだった。僕もずいぶん変わったなと思う。 そして、僕はちゃんと言葉にして彼女からのプロポーズの返事を――プロポーズ返しをした。「――絢乃さん、僕、覚悟を決めました。あなたのお婿さんになりたいです。僕と結婚して下さい。お父さまの一周忌が済んで、絢乃さんが無事に高校を卒業して、そうしたら。……で、どうでしょうか」「はい。喜んでお受けします!」 彼女は万感の思いで頷いて下さり、僕たちは晴れて婚約関係となった。指輪はクリスマスイブに改めて贈ることになった。   * * * * ――そして迎えた、絢乃さんと二人きりで過ごす初めてのクリスマスイブ。 僕たちは会社帰りにお台場のツリーを見に行き、オシャレなレストランで夕食を摂った。ちなみに絢乃さんはすでに学校が冬休みに

  • トップシークレット☆桐島編 ~お嬢さま会長に恋した新米秘書~   彼女に出会えたことの意味 PAGE13

     ――絢乃さんと〈U&Hリサーチ〉のお二人とで立てられた作戦決行の日は土曜日だった。 土曜日はキックボクシングの練習がある日なのだが、僕も作戦の行方が気になっていたのでその日は練習を休んで決行場所に行くことにした。絢乃さんにはお知らせせずに。『――桐島さん。あんたも作戦のこと気になるだろ? だったら、篠沢会長には内緒で見届けに来ればいい。今度の土曜日、新宿の駅前で決行することになってるから』 事務所を訪ねた日の帰り、内田さんがそう声をかけて下さったのだ。作戦の内容についても、その時に説明されたのだが……。 別れた女性には必ずリベンジポルノを仕掛けていたという小坂リョウジを絢乃さんがわざとデートに誘い、そこで彼の本性を暴いてその様子を真弥さんが乗っ取った彼の裏アカウントからライブ配信するという作戦に、僕は卒倒しそうになった。大丈夫なのか、この作戦!? 絢乃さん、まだバージンのはずだろ!?  彼女に何かあった時のために、武闘派刑事だった内田さんと空手の有段者だという真弥さんがボディガードも兼ねるというが、その役目は僕じゃダメだったのだろうか……。 その日、絢乃さんは背中のパックリ開いたシースルーのミニワンピースをお召しになり、その上からレザージャケットを羽織っていた。そういえば、夏に胸元と袖の部分だけがシースルーになっているワンピースをデートに着て来られたことがあったが、もしかしたらその服と一緒に購入されたのかもしれない。どうでもいいが、遠目から見ても目のやり場に困る。 やがて、何も知らないであろう小坂さんがのほほんとした様子で現れ、普段より大胆な格好をした絢乃さんをナンパし始めたが、絢乃さんは堂々と彼に啖呵を切った。「わたしが貴方を誘惑するわけないじゃないですか! 彼を傷つけた相手を好きになるわけないでしょ? 貴方の頭の中、お花畑ですか? ……わたし、貴方なんか大っっっキライです!」 彼女のおっしゃった「彼」というのは僕のことだとすぐに分かった。僕を守るためにここまでして下さっているんだと、僕の胸が熱くなった。 やがて内田さんと真弥さんも姿を現し――二人とも、どこに隠れていたんだろうか――、この状況がSNSでライブ配信されていることを暴露したことで、作戦は無事成功したようだった。 ……が次の瞬間、怒り狂った小坂さんが絢乃さんに襲い掛かろうとした

  • トップシークレット☆桐島編 ~お嬢さま会長に恋した新米秘書~   彼女に出会えたことの意味 PAGE12

     それだけあんたのことを愛してるからだろ、と内田さんは続けた。 確かに、彼女が篠沢グループのトップに立ってからずっと、僕は彼女に守られてばかりだった。最初は社員の一人として守られているだけだと思っていたが、それは違った。彼女は最初から、僕のことを愛しているから守って下さっていたのだ。「もうちょっと自分の彼女のこと信用してあげなよ、桐島さん」「信用はしてますよ、ずっと」「まぁオレも、偉そうなことは言えねぇんだけどな。――オレは、ここにいる真弥に救われたんだ」  内田さんが思わぬカミングアウトをしたので、僕は彼の過去――この事務所を開く前のことが気になった。「あの……、ホームページで拝見したんですけど。内田さんって前は警視庁の刑事さんだったんですよね? どうして退職されたんですか?」「警察組織に嫌気がさしたから、だよね」 まず最初に口を開いたのは真弥さんで、内田さんも「ああ」と頷いた。彼女も事情をよく知っているらしい。「真弥とはある事件をとおして知り合ったんだけどさ。彼女、実はスゴ腕のハッカーで、捜査に協力してもらってたんだ。それで犯人は逮捕できただけど、彼女に協力してもらったことで監察官に目をつけられてさ。真弥は警察組織のお偉いさんがある事件を揉み消してたことを突き止めてた。そのことをうやむやにしたかったらしい上にクビにされかけて、逆にオレの方から辞表を叩きつけてやったんだ。こんな腐った組織なんかクソだ、ってな」「んで、警察を辞めたこの人にあたしから言ったの。『二人で調査事務所やろうよ』って」「そうだったんですか……」「だからオレは、そこに彼女――真弥と出会えた意味があるんじゃないかと思ってる。桐島さん、あんただってそうじゃないのか?」「僕が、彼女に出会えたことの意味……か」 絢乃さんに出会えたことで、僕は会社を辞めなくて済んだ。彼女の秘書になったことで、自分の仕事を好きになれたし誇りも持てるようになった。バリスタになるという夢にも一歩近づけた。 そして、彼女を好きになったことで女性不信も克服できた。あんなに消極的だった結婚も前向きに考えられるようになった。 それはすべて、絢乃さんに出会えたからだ。これこそ、僕が彼女に出会えたことの意味に他ならなかった。

  • トップシークレット☆桐島編 ~お嬢さま会長に恋した新米秘書~   彼女に出会えたことの意味 PAGE11

    「すみません、突然押しかけてしまって。もう事務所を閉められる頃だったんじゃないですか?」「いや、別に構わねえよ。個人でやってる事務所だから時間の融通はきくし」 内田さんはそう答えて下さった。一般企業ではないから、特に閉所時間なんていうのは決めていないのかもしれない。「――誹謗中傷の投稿をしたのは、俳優の小坂リョウジさんだったそうですね。動機は僕への逆恨みだったとか」「ええ。あの男、調べた限りじゃ所属事務所もクビになってて相当焦ってるみたいですよ。絢乃さんには会長就任の記者会見を見てからずっと目をつけてたみたいですね。彼女に取り入れば大きな仕事が転がり込んでくるって」 答えて下さったのは真弥さんの方だった。「ふてぇ野郎だよな」と内田さんも同調して、彼女と視線を交わしていた。どうでもいいが、来客の目の前で恋人同士の空気を出すのはやめてほしい。「……あの、今日、こちらへ訪ねてきたのはですね。調査が終わった後なのに、絢乃さ……会長が僕に内緒であなたと頻繁に連絡を取り合っているようなので、ちょっと気になって」「……………………」 本題を切り出すと、内田さんは何か後ろめたいことがあるように僕から目を逸らした。「もしかしてあなた、彼女と浮気してるんじゃないですか?」「「…………~~~~っ、アハハハっ!」」 僕が指摘すると、彼も真弥さんもなぜか大爆笑した。どうして僕はこの二人からこんなに笑われているんだろうか。「あー、ごめんごめん! なんかあんたに誤解させちまったみたいで申し訳ない! でも、それは絶対にねえから。依頼人には手を出さない、これ探偵の鉄則な。――絢乃会長と連絡を取り合ってるのは、三人でちょっとした作戦を立ててるからで……、あんたには内緒にしてほしいって言われてんだけどな」「作戦?」「ああ。あんたに話したら絶対に反対されるから、って。そんだけヤベえ作戦ってことなんだけどな、それでも彼女はやりたい、だからオレたちにも協力してほしいって」 つまり、それだけ危険を伴う作戦ということだろうか。ケガをさせられる、もしくは彼女の貞操にも影響が……? だから彼氏の僕にも言えなかったのか?「そんなに危険な作戦なら、あなた方も止めて下さいよ。分かっていて協力するなんて、そんな……恋人である僕を差し置いて」「おっ、それがあん

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